[∈]『交換理論と社会学の方法』要約


 

 

「学部生時代の勉強を遺そう」シリーズ第5弾。

 

久慈利武、『交換理論と社会学の方法』、新泉社、1984年

 

経済市場以外に、我々の日常生活場面のいたる所に交換と思われる事象は見受けられる。交換は財の移動、つまり二人の主体相互の間で、財の所有権と使用権が移転しあうことであり、これには売買・貸借・贈与がある。別の観点から定義すると、交換とは、他者にとって価値あるものを他者に供与することを通して、その他者から自己にとって価値あるものを獲得する自己と他者の間の相互行為である。それには、相互利益・相互利益化が前提である。ただ、全ての相互行為が交換行為とみることはできず、社会的交換理論では、相互供与・相互獲得の過程が存在する相互行為でも対象にするものは更に限定され、交換の対象は一義的ではなく多様である。取引と贈与という観点からは、社会的取引と社会的贈与のみが社会的交換理論でとりあげられる。交換理論では、交換のバランス、交換の等価性・分配の公正、リウォード調達とそれに伴う費用支出の内容などが問題にされる。交換理論の源流は、交換概念を経済的交換に限定せず非経済的交換にまで拡大した先駆、ジンメル、マリノフスキー、モースに求められ、現代の交換理論家はその着想を受け、社会的交換理論の理論的整備を志向し、社会過程の説明原理としての交換理論の戦略的意義の証明に取り組んでいる。その代表がブラウとホマンズだ。本書では、両者の交換理論の内容を対比して探る。

ホマンズとブラウの差は、経済的交換発想への依存度(ホマンズが依存的)や贈与的交換視点導入の有無(ブラウに有)のほか、社会過程を交換から解釈する際の交換概念の戦略的意義づけにも表れている。ホマンズが一対集合の交換に着目するのに対し、ブラウは一対一の交換に着目する。この違いは、ホマンズが還元的な要素主義であるのに対し、ブラウはシステムの組織的水準間の双発的属性を尊重するという姿勢の違いに由来する。つまり、ホマンズは交換を「個人の社会行動」と見るのに対し、ブラウは交換という相互行為を、そこまで解体せずミクロとマクロの次元でそれぞれ適当な個人と集合体の相互交渉にさかのぼって派生的複合現象とみるのである。ホマンズとブラウの交換理論の差異は、対象・理論の射程・交換概念の適用範囲などに大きく見られる。また社会過程への接近という大きな課題に対しても、そのトピックである権力、権威、地位・勢力の分化に違いがみられる。

交換理論はここで扱う社会学、心理学、人類学、政治学の4つの潮流があり視点の違いがみられる。60年代に登場した社会学の交換理論は、当時支配的であったパーソンズ派機能主義への批判を克服し代替の途を約束するものとして脚光を浴びた。しかし、様々な批判もある。外在的批判で代表的なのは、互酬性論からの批判、交換理論の社会構造機能の解明機能への批判などである。特に、現代交換理論の創始者ホマンズに向けられた批判は多い。彼の交換理論を継承拡充したブラウ・エマーソンも、その批判の多くから解放されることができていない。近年は、ホマンズ・ブラウの交換理論の限界の指摘を持って交換理論全体の限界とみなし、その課題達成を他の潮流に期待する体裁で終わる著作がほとんどである。ホマンズ・ブラウに続く交換理論の前進が待たれる。

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